66後期

ダイエットの記事でちらりと登場したこちらの2本のジーンズ。


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濃紺の1本は、メーカー勤務時代の先輩パタンナーSさんが独立し開業したパターン&サンプル作成のBlue Routeさんで作って頂いたオリジナルジーンズです。

 

ベースは私所有の79 年製の66後期で、ケアラベルの表記が31 × 31のベストサイズ(でした)。

この66後期の501、生地の質感はほとんどハチマル赤耳と変わらないし、ビンテージと言う意味では個人的にはXXやビッグEとは一線を画す存在と考えてます。ただそのテーパード具合や小ぶりなポケットはスマートな印象で、今回オリジナル作成のベースにしました。この記事ではそのオリジナルジーンズを紹介しようと思っていましたが、、、

ベースにした66を見ていたら生地が気になり出してしまい(笑)

 

66初期からハチマルに掛けての10数年ほどで501の生地はどのように変遷したのでしょうか。有名な変更点は縮率表示ですが、8%から10%に変わったとき、糸質や染が大きく変わった?

また66前期と後期では何が違う???

 

66E、ハチマル脇ロックはデッドストックを所有していますのでちょっと比較してみると、、、

 


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アップの画像はイマイチ分かりにくいですが、並びで見ると66Eのほうが明らかに色目が深く、経糸のムラが強いのが分かります。ハチマルはリジッドの段階でも毛羽が目立ち、生地の表面はかなりフラット。ハチマルの毛羽に関しては恐らく70年代後半から増えた、OE糸の影響かと思います。66後期のデッドストックは持っていないので同条件で比べられないのが残念です。

66後期以降の501は摩擦に対する強度がかなり低くなった印象で、全体に色が濃く残っていてもインシーム小股付近が擦れて局所的にダメージが強く出ている傾向が多いように感じます。パターンベースにした66後期も全体はまだ色が残っているのに、小股のダメージが先行しています。そんなにパチパチで履いてる訳ではないんですけどね。これはOE糸だからでしょうか?

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ちなみにOE糸は撚りが糸の表面中心に掛かり、中心部分は弱くなります。そのため空気を多く含み、独特のドライタッチな風合いや嵩高感を生み出しますが、反面毛羽が多く、強度が低下する傾向があります。

 

技術的にはシャトル織機でもOE糸は使えるそうなので、糸の変更が先に始まり、80年代に入って織機も徐々に高速広幅のエアジェット織機に変わったとすると、

 

66E、前期 → リング糸、シャトル織機

66後期 → ○○糸、シャトル織機

80耳あり → OE糸、シャトル織機

80耳なし → OE糸、エアジェット織機

 

となり、変遷期にあたる66後期はリングかOEか。

 

糸質と織機の変遷と同時に、染料にも変化があります。量産化の過程で染まりにくいインディゴ染料の補助としてサルファー染料(=硫化染料)が使われる度合いが強まり、66後期以降の淡いブルーは明らかにその傾向が顕著になっていますが、この硫化染料はちょっと曲者です。

硫化染料の代表格と言えば、最近人気が高まっている80年代後半〜90年代の501のブラック。このアイテムはダメージの傾向が強く、小股まわりにダメージが無い個体を探すのが困難なくらい。特にヌキ黒と呼ばれる緯糸も黒いブラックデニムは顕著なのですが、これはOE糸の特徴に加えブラックデニムを作る際に使われる硫化染料が影響していると思われます。硫化染料に含まれる硫黄分は経年で酸化が進むと硫酸成分を生みだしてしまい、これが生地の劣化を促進しているのではないかと推測しています。f:id:REDMIKE866:20210713135206j:image

だらだらと長くなりましたが、、、

66後期はリング糸とOE糸の変更期で、同時に染色の工程も大きく見直された。というのが状況証拠から推測する個人的な結論です。思い切りグレーな結論ではありますが、在庫を消化しながらアップデートをしていたリーバイスあるあるかと。

 

ハチマルで縮率表記が10%になったのも、リング糸からOE糸に全面的に糸質が変わったのがこのタイミングと考えれば、何となく納得がいきます。ハチマルの耳あり(=シャトル織機)と耳なし(≒エアジェット織機)で縮率の表記が同じ10%なんて如何にもおおらかなアメリカですが、リングからOEに紡績方法を変更した際の縮率の差は無視できないものだったのでしょう。リーバイスのサイズブレの社内基準は2000年代当時ウェストで±1/2インチ(≒1.27cm)でした。もし80年代から変わっていなければ、マスターサイズである31インチで縮率が2%違えばウェストが約±1.57cmの差になるので、3mmとは言え社内規定上はアウト。混在期は黙認して、全て切り替わった時点で表記変更したのかもしれませんね。

 

青春時代、『なんで現行の501は色は浅いし、こんなに毛羽っぽくて、シボも強くて野暮ったいんだろう』と、思っていたものです。

90年代以降は、世界的にビンテージの価値が上がったことで、とくに日本の生地メーカーはリング糸こそ王道のような流れになり、空紡デニムに接する機会は少なくなっていました。

 

しかし、ここ数年の80〜90年代ブームの影響で空紡デニムの価値は見直されており、現金なもので久しぶりに見るとあんなに嫌いだったレギュラーの501がなんだか新鮮だったりして(笑)

 

で、探してみたら同じようなこと考える人が生地メーカーにもいたみたい。

 

ありました。空紡糸使いのセルビッジデニム。f:id:REDMIKE866:20210713135224j:image

実は、せっかく出来上がったオリジナルジーンズでしたが、ダイエットが上手く行きすぎてしまい、ブカブカ。という訳で、この生地でもう一本作るので完成したら改めて。

 

66後期の糸質に関しては、コロナが明けたら生き字引に会って答え合わせしてみたいと思っています。いつか続編をアップできると良いのですが(笑)